リバーエコノミー創出|永平寺町だからこそできる川のあるまちづくり 「PADDLING VILLAGE」で九頭竜川からメダリストを輩出します!

2017年、フリースタイルカヤック(世界第4位)の松永和也選手から当時の河川国道事務所所長へ、ひとつの提案があった。それは、カヤックに適した川があり、ぜひそこで練習や大会が開けるようにしたいという提案であった。当時、その提案をうけた国交省福井河川国道事務所の所長中村圭吾氏からこのことを紹介され、私たちはすぐさま現地を調べた。

図 位置図

図 毎秒30トン以上流れる放水路

その場所は、福井県吉田郡永平寺町にある、九頭竜川と支川吉峰川との合流点で、市荒川発電所(関西電力)からの放水が年間を通じて毎秒30トン以上(最大毎秒80トン)が安定的に流れている場所であった。フリースタイルカヤックの練習場所をつくるという点において、国内のどこを探してもこのような環境は他にはないというものだった。もし実現したとすれば、これはオモシロイ!と直感した。そして、カヤックの練習場所としてカヤックの愛好家のための場所とするだけではなく、カヤックも地域経済も住民も「三方良し」の方策がないものか、すぐに考え始めた。

 

ROAD TO MEDALIST

カヤックの練習環境を整えるからには、選手のレベルアップは望みたい。その選手がメダリストになるためには、施設やコーチを充実させ、練習と大会を繰り返し、経験値を積むことが必要であろう。

しかし、こうした目に見える部分は真似されやすい。強い精神性や、モチベーションなど、見えない部分にこそ真髄があり、それは真似されにくい。

そこで私たちは考えた。この場所は、禅の聖地である永平寺を擁する、永平寺町。目指すところは、禅が育まれた風土でスポーツ道を学び、九頭竜川が流下する永平寺町からメダリストを出す。これが「パドリングビレッジ」を創造する根幹なのではないか。

私たちは、永平寺から、福井から本氣でメダルを取りに行く!ということで、このプロジェクトをはじめた。

 

カヌー競技の現状

下図の日本ボート協会(2016調べ)によれば、競技カヌーを楽しむ人口は下位の「意向者」は約2,500万人でボートとおよそ同数であるが、難易度が上がる「登録者」に従いその数は減少しボートの約1/3以下となる。これは、競技の難易度にもるが、練習場の不備不足や指導者不足などが原因の一つと考えられる。

 

図 競技人口とポテンシャル層

カヌー競技は現在、以下の種目がある。

  • スプリント(五輪12種目) 2,375名(H23日本カヌー連盟選手登録数)
  • スラローム(五輪4種目) 425名(H23日本カヌー連盟選手登録数)
  • ポロ
  • ドラゴンボート
  • ワイルドウォーター
  • フリースタイル

福井県では、スプリント、ポロ、ドラゴンボート、ワイルドウォーターの競技が可能で、国内でも有数のフィールドを有している。今回、フリースタイルカヤックが加われば、国内唯一といっても過言ではないパドリング王国となる(下図参照)。

図 カヌー競技のポテンシャルマップ

しかし、世界規模でみれば、日本は地形的に決して恵まれているわけではない。ヨーロッパやアメリカ大陸では激流を伴う大河川で目を見張る水量が流れている環境があり、そのなかで育まれた競技人口やメダル獲得数がさらに競技の人気を高めている(下図参照)。

© 2017,Wikipedia,https://ja.wikipedia.org/wiki/オリンピックのカヌー競技 データをグラフ化

 

3つの課題

パドリングビレッジ創造に向けて、様々な問題が考えられる。それもそのはず、誰もがやったことが無いものばかり。考えられるだけでも多数の問題がある中、私たちは3つの課題に整理した。

  • ハードウェア|設備・機能
  • ソフトウェア|サービスの仕組み・組織
  • ヒューマンウェア|選手・サポーター・禅道

 

(1)ハードウェアでは、静水コース(鳴鹿橋周辺)、流水コース(市荒川)の2つのエリアに分けて整備方針を分ける。静水コースはエントリーや観光をターゲットに、流水コースはメダリスト育成とショービジネスをターゲットとする。課題としては、観客席、オープンカフェ、テントエリアの創出、エントリーモデルのカヤック資器材調達、駐車場、上下水道、トイレ・シャワーなどの整備、トレーニングセンター、宿泊施設などがあり、また、2地点(約10km)の動線を結ぶコース移動などが挙がる。

(2)ソフトウェアでは、メダリストを目指す教育が主な点となり、カヌースクールの設立、指導者育成、水辺の安全管理者の育成などが挙がる。さらに、ツーリズムのキラーコンテンツ発掘、ショービジネスとしての観光資源の発掘も必要になる。他方、周辺観光との連携や河川関係団体との利害調整、スポンサーなども重要である。そして最もポイントとなるのが、永平寺住民にとって、パドリングビレッジは私たちのシビックプライドであると当事者となって心の底から思う気持ちである。

(3)ヒューマンウェアでは、禅の精神を参考にメダリストへの道を歩むオリジナルシラバス確立、有名選手からの直接指導、指導者・審判員の育成確保、国際(国内)大会の誘致などがあり、カフェ・BAR、宿泊などエリアマネジメントを高める経営者への支援などが挙がる。さらに、学校教育や生涯教育として取り入れることも重要である。

 

コンセプト

水辺のまちづくりに携わっていて思うことは、BBQ、キャンプ、体験型カヌーなど、河川が違っても同じようなアイデアが出やすい。一方まちづくりでは、水辺が「うるおいのエリア」、「癒しのエリア」など具体的なコンテンツがないもののエリア分けされて特徴が出づらいことも多い。また、観光コンテンツに突っ走ることも多々ある。

私たちは、禅の教えがある永平寺町と、九頭竜川流域住民が当事者となって、一つのリアルな目的に向かうまちづくりを進める関係をつくるためにも、明確なビジョンを掲げたかった。このコンセプトがこれである。

「水と緑と歴史に学ぶまちで、目指すはメダリスト!」

 

永平寺町を横断する九頭竜川はまちのシンボルそのものである。中部縦貫自動車道、道の駅そして永平寺門前まちなみがオープンする中、えちぜん鉄道や無人自動車開発などとの連携に加え、永平寺町の3つの河川公園や自転車道とのネットワークを強化することで、観光交流だけでなく暮らしやすいまちを目指す。私たちは、世界のどこにもないパドリング・ビレッジを九頭竜川が流れる禅のまち永平寺で整備し本気でメダリストを育てる。

 

将来像は、水と緑と暮らしとスポーツと。育住遊一体型のまち

近畿-北陸、福井-中部・関東の2つの広域連携軸は、カヌー競技のメッカである揖斐川・長良川(岐阜県)、井田川(富山県)、木場潟(石川県)、そして久々子湖とここ九頭竜川。将来都市構造図の交通軸と見事に合致する。更に永平寺町はカヌーポテンシャルの中心に位置している。住民も観光者も誰もが気軽に楽しめる水と緑の拠点として、アクセス性の向上や機能充実、周辺環境と一体となった良好な景観、視点場、2つのエリアでメダリスト育成をテーマに川のあるまちづくりを目指していく。

図 永平寺町都市計画マスタープランと高速交通網に並行した2地点の関係

尖ったスポーツエコノミーでまちを面白く!

メダリストを輩出するには練習場や競技場のハードウェアが必要であるが、スポーツ教育やエコノミーなどのソフトウェア、さらには選手や監督や地域経営者などヒューマンウェアも重要である。静水面の鳴鹿エリア、ホワイトウォーターの市荒川エリア、2つのエリアで尖ったスポーツエコノミーを展開する。

 

(1)鳴鹿エリア

鳴鹿堰堤と永平寺河川公園の間にある静水面では、カヤックの初級者練習や体験などエントリーができる。水上にはスプリントコースを設定する。堤防上にはトイレや休憩施設、さらにはカフェ、レストランやBAR、照明や音楽も加えて保護者から観光客まで楽しむ。市荒川エリアまで自由に行き来できる電気無人自動車で河川敷内の交通を妄想している。

(2)市荒川エリア

関西電力の発電放流により通年急流が生まれる場所では、水上のフィギアスケートといわれるフリーススタイルカヤックが主となる。安全管理や水難救助の訓練にも活用でき、本流ではSUPやEボートもできる。観戦エリアにはDJや水中照明も加えたエンターテイメントや、キャンプやグリルBARなどでナイトエコノミーも創造していきたい。

© 一般社団法人環境文化研究所

公共事業を民間力で

2017年に永平寺町長を始め地元の方からの絶大な賛同を得て、試行錯誤を繰り返し、2020年4月に「九頭竜川かわとまち協議会」が設立できた。川はまちの一部であり、ヒトの交流によってまちが楽しくなり、もっと楽しむまちになるようなヒトを育てていく。そんな協議会はカヌーコースに必要な「ウェーブ」を民間資金を投入して造ろうと考えた。通常、河川改修工事は公共事業であり公金によって施工される。しかし今回は、100%民間資金を使うと決めたのである。その理由として、住民のものであるという当事者意識を育み、スピードをもって結果を生み出すためである。河川をさわるには、様々な許可申請が必要であるが、この協議会には民間人だけではなく、国、県、町や大学といった機関が属している。地方銀行も加わることでファンドに対する考えも怠っていない。私は、これこそが公民連携PFIなのだと感じている。

実は、関西電力が施設点検のため放水を停止するのが4日ほどである。つまり、工事はこの日程にロックオンしなければならず、ひとたび放水が始まれば毎秒80トンの中では施工は無理である。そのため、事前に福井高専田安研究室の協力を得て水路実験を行い、地元漁業組合とも調整し指導をいただきながら改良し、福井県河川課とも阻害にならないか調整を重ねながら、ついに本番を迎えることとなった。発案から3年、いよいよ第一歩を踏み出したのである。

そこで私たちは、多くの方とこの感動を共有するために、クラウドファンディングで資金調達にも取り組んでいる。工事費は約400万円となり、そのうちの150万円をクラウドファンディングにした。驚くことに、開始2日で目標を達成した(現在NEXT GOAL 300万円に向け継続中)。カヤッカーからの支援が目立つ。競技者をはじめ多くの方がフィールドに困っていたり、カヤック競技の将来を楽しみにしていることがこの結果につながったのだと推察する。皆さん本当にありがとうございます。

私たちは、日本にここにしかない、フリースタイルカヤックコースの設立を機に、まだ誰もが体験したことのないパドリングビレッジを楽しみながらつくり続け、胸に輝くメダルをつかむ日を実現する。

 

 

九頭竜川かわとまち協議会の活動にご支援や応援をいただいている企業、団体の方々をご紹介いたします。<五十音順>

 

 

 

サポーター、スポンサーを随時募集しております。詳しくは事務局までご連絡をお願いいたします。

シェアする
Facebookページをフォローしてね!
Paddling Village
タイトルとURLをコピーしました